ノアアニマルクリニック 院長の前谷です。
前回に引き続き、ロイヤルカナンの療法食を使い分けて治療したワンちゃんについて書きたいと思います。
元々腎臓病があり定期的に病院にかかってたワンちゃん。嘔吐と下痢で来院されました。
腹部超音波検査では、左右の腎臓と膀胱に結石があり、胆泥の貯留もありました。
血液検査の結果、腎臓の数値も高めでしたが、膵臓の酵素リパーゼが機械で測れる最高値を振り切ってました。
リパーゼ LIP >1000 U/L(基準値は10~160 U/L)
嘔吐などの症状は、急性あるいは慢性膵炎からの可能性が高いと判断し、食事を膵臓への負担をかけない低脂肪食・ロイヤルカナンの『消化器サポート低脂肪 小型犬用』に変更しました。
その後、リパーゼも下がって調子が良かったのですが、ある日突然元気がなくなり来院されました。
お腹を触るとウーンと声を出して痛がります。
腹部の超音波検査では、左の腎臓の腎盂(じんう:尿が作られてたまる場所)が拡張しておりました。
その先を追っていくと、腎臓から出てすぐの尿管に5mmの結石がつまっており、そのため腎臓で作られた尿が流れず腎臓が腫れていました。
ワンちゃんの尿管結石は、多くの場合細菌感染を伴うことが多く、腎臓に流れずたまった尿は化膿して膿(うみ)のようになってしまいます。
膀胱にもたくさんの石が出来ており、感染があるので白くモヤモヤしていました。
こうなってしまうと、なかなか内科的に治療するのは難しく、感染を起こした左の腎臓を手術で摘出するかを考えないといけません。
しかし、高齢のワンちゃんで、反対側の右腎臓にも結石があり、もし左の腎臓を摘出してしまうと右の腎臓が弱ってると手術後にひどい尿毒症になってしまうこと、麻酔のリスクや手術によるダメージも考えて、手術ではなく尿路結石(感染を伴うストラバイト結石)を溶かす方向の治療に切り替えることにしました。
そこで登場したのが、前回のブログでもオススメしたロイヤルカナンさんの『ユリナリーS/O+満腹感サポート』です。
前回のブログでもご紹介した通り、このフードは尿路結石用フードながら、高脂血症の治療もできるほど中等度に脂肪を制限した栄養組成になっており、急性膵炎にもある程度心配なく使えるフードですのでこれを選択しました。
抗生物質の変更と、フードを変更することにより徐々に元気になり、お腹の痛みも引いてきました。
25日経過した頃には尿管の石が少し動いて小さくなっており、そのため腎臓の尿が流れ出したのか腎臓の腫れが小さくなってきました。
そしてフード変更から45日目には、左の尿管の石はなくなり、腎臓の腫れもすっかり治まってました。ダメージを受けて腎臓のサイズは小さくなりましたが、腫れていた時には押しつぶされて見えなかった腎臓の構造も再び見えるようになっておりました。
膀胱の中の結石はというと、フード変更のおかげでほぼ溶けてなくなっておりました。
血液検査の数値はというと、やはりその間にダメージを受けた左腎臓の影響が出てきたようで、腎臓の数値が上がってきました。
腎臓が悪くなると、元には戻せません。治らない病気のため、いかに残っている腎臓を温存し、老廃物をためないように過ごすかがカギとなります。
そこで、結石が溶けた今、優先すべきは腎臓の温存だと判断し、フードをロイヤルカナン『腎臓サポート』へと変更しました。
ここで一つ心配なのは、腎臓サポートはタンパク質を制限する代わりに脂肪がたくさん入っており、膵炎の悪化につながらないか?ということでした。
しかし、リパーゼが上がっても元気にしていることが多い様子から、膵炎症状(嘔吐や食欲不振)がない限りはリパーゼの上昇は目をつむっても良さそうだという判断に至っておりました。
現在はというと、腎臓の数値は高いのですが本人はいたって元気で食欲もあり、膵臓の数値も時々振り切るくらい高い時もあるのですが、上がったり下がったりしながらも、膵炎症状はなくとても元気に過ごしています。
このように、状況に応じて色々と考えながらフードも使い分けているんですね。今回は、そういったお話でした。
体調のことや、検査結果で気になることがあればお気軽にご相談くださいね。
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